人間の安全保障

- Human Securityニュース -

「人間の安全保障」(Human Security)とは

「人間の安全保障」(Human Security)とは、従来の国家による枠組みでは解決が困難な、広範かつ深刻な脅威や状況(感染症や環境汚染等)から人間を守ることであり、「安全保障の今日的課題」(人間の安全保障委員会による報告書。朝日新聞社、2003)では「人間の生にとってかけがえのない中枢部分を守り、すべての人の自由と可能性を実現すること」と定義されています。

東京大学との共同研究の実績

伊藤塾では、2009 年より東京大学と連携して、「人間の安全保障」の観点から、難民・移民をはじめとする「人の移動」に特にフォーカスした共同研究を実施しています。2010年4月には東京大学大学院総合文化研究科内に「難民移民(法学館)」寄附講座が設置されました。(2015年3月31日終了)
伊藤塾はこれからも、Human Securityニュースとして、「人間の安全保障」分野に関するコラムを、ホームページ・塾便りを通じて発信していきます。

Human Securityニュース

第45号 信頼ある社会(3)

 前回、前々回と、「信頼ある社会」と題して、社会の仕組みに信頼が果たしている役割を観察してみると、その重要性や法の限界について考えさせられるといった趣旨のことを書きました。今回は信頼と政治経済や「人間の安全保障」の直接の関係についても触れたい と思います。

第44号 信頼ある社会(2)

 前回、「信頼ある社会」と題して、社会の仕組みに信頼が果たしている役割を観察してみると、その重要性について改めて考えさせられるといった趣旨のことを書きました。今回も引き続き、そうしたことや法の限界について考えてみたいと思います。

第43号 信頼ある社会

 80年代から90年代にかけてドイツの大統領を務めたヴァイツゼッカーは、連邦議会での演説(永井清彦訳『新版荒れ野の40年』岩波書店、2009年)で、「過去に目を閉ざすものは、現在についてもやはり盲目となる」と述べました。
いろいろと深みある言葉を残している彼は、法律家としても活躍してきた経験から、「自由民主主義を維持するためには法と裁判所だけでは足りず、加えて市民の勇気ある行動が必要なのである」とも述べています。

第42号 地球の裏の「3.11」:チリの被災地を訪ねて

 55年前の話から始めたいと思います。
1960年5月24日未明、地球の裏側に位置するチリからの津波が、日本に押し寄せました。
この災害は、チリ南部沖でマグニチュード9.4という観測史上最大の地震(バルディビア地震)が、現地時間5月22日午後3時11分に発生したことによるものです。

第41号 レジリエンスと人間の安全保障

 今回は「レジリエンス(resilience)」について考えてみたいと思います。
レジリエンス(強靱性)とは、本来は物性を表す用語であり、力に応じた変形を通じて曲げや引っ張りなどのエネルギーを吸収し、再びそれを解放する性質のことです。

第40号 それでも頑張るCDR:難民と国際的保護のアジアネットワーク(ANRIP)と「難民政策プラットフォーム」の始動

 本年3月の塾便りでお知らせしましたとおり、株式会社法学館による東京大学寄付講座「難民移民(法学館)」は、本年3月31日をもって終了しました。
しかし、同講座に支えられたCDR(難民移民ドキュメンテーション・プロジェクト)は、東京大学グローバル地域研究機構持続的平和研究センターのプロジェクトとして引き続き活動をしています。

第39号 「未曾有の危機」を知る

 毎年6月20日は「世界難民の日(WorldRefugeeDay)」です。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)がこの日に合わせて発表した数字によると、住む家を追われた人の数は世界全体で6,000万人に及ぶということです。

第38号 人間の安全保障と国際協力

 皆様は政府開発援助(Official Development Assistance, ODA) について、詳細はともかく、概略についてはご存知のことと思います。その ODA に最近動きがありました。将来ご活躍の分野のご参考に、あるいは何らかの話題として頂ければと思います。

第37号 寄付講座を終えるにあたって

 株式会社法学館/伊藤塾による東京大学寄付講座「難民移民(法学館)」は、2010年度から5年間にわたり,難民移民にかかる研究教育を行なってきました。同社による寛大な寄付を得て継続してきたものですが本年、3月31日をもって終了します。これを記念 して、同講座が支援してきた東京大学大学院「人間の安全保障」プログラムとCDR(難民移民ドキュメンテーション・プロジェクト)の共催という形で、同講座最後のイベント「日本の難民政策の現状と課題:国際公共財の観点から」と題するセミナーが開催されま した。

第36号 教育を受ける権利、およびその機会の保障について

 教育を受ける権利は、法によってどのように保障されているのでしょうか。日本国憲法は第26 条第一項に、すべての国民がひとしく教育を受ける権利を保障しており、第二項において、すべての国民に対する「教育を受けさせる義務」が課されています。それでは、外国人の教育を受ける権利はどのように保障されているのでしょうか。

第35号 難民の支援とは何か ~言語支援という側面から見えること~

 難民の支援と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。難民キャンプで生活する難民が、食糧配給や医療を受けている姿。世界各地にいる難民の保護と支援活動を行う国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などの国際機関、あるいは国際NGOでしょうか 。中には、日本における難民に対する法的支援や日本語支援を思い浮かべる方もいるでしょう。

第34号 法の実現と法の限界 ~「難民移民(法学館)」寄付講座による取組み~

 法を、本来あるべき姿として実現させるにはどうしたらよいのでしょうか。法そのものが理解されていないのであれば、まずは本来の意味で理解することが求められるでしょうし、法の機能に不備があるのであれば、法を変えることが求められるでしょう。「難民移民 (法学館)」寄付講座では2009年度から2014年度の6年にわたり、難民移民問題に関する研究と教育に取り組んで参りました。

第33号 難民法の実務や研究を知ることの意味

 私たち東京大学では、丸6年にもわたる伊藤塾(株式会社法学館)からのご支援のもと、難民問題に関して研究と教育を展開して参りました。おかげさまで想定以上の成果を生むことができ、継続を望む強い声をもいただいております(寄付講座は2015年3月末で の終了予定)。その集大成とも言えるイベントが11月21日(金)および22日(土)の両日、国際シンポジウムという形で盛大に催されます。

第32号 本での外国人の生活実態は、一体誰がどのように知っている?

 これまでに、ミャンマー出身者のための日本語教室における参加者の様子や聴き取り結果をご紹介してきました。日本語習得は、新たな職業等に結びつくものとして捉えられているように見受けられます。彼らの多くは、現在は飲食関係の仕事に就いていますが、日本 語教室で日本語を習得し、ゆくゆくは通訳業や翻訳業をはじめ、技術を身につけ民族の住む地域に戻って活かしたい、さらには自分が日本語を教えてみたいという意見も聴くことができました。

第31号 難民と教育 ~ミャンマー出身者に対する「日本語教室」の取組み~

 日本語教育は、一般に日本語を第一言語としない人に対して(つまり第二言語として)行われる日本語の教育として認識されていますが、この第二言語としての日本語教育は、二つに区別することができます。一つは JSL(Japanese as a second language)教育と呼ばれる、主に日本国内で第二言語として日本語を学習するもの、もう一つは JFL(Japanese as a foreign language)教育と呼ばれる、主に国外で外国語として日本語を学習するものです。

第30号 難民と教育 ~国家予算の使われ方と日本語習得の機会について~

 日本の国家予算が日本国籍をもつ人に使われていることは当然であると思いますが、外国人にも国家予算が使われており、その中には日本が受け入れた難民も含まれています。日本は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が実施する国外の難民・避難民支援に対 して、2013年に約2億5,300万米ドル(約260億円)の供出を行っています。

第29号 難民と教育 ~ミャンマー出身者に対する「日本語教室」の取組み~

 従来、難民に関わる事象のなかでも教育は、どのように捉えられてきたのでしょうか。難民に対する教育は、歴史的において教育開発(教育復興)の文脈で、また人道支援・復興支援、「人間の安全保障」の文脈で、その必要性や重要性について認識され始めています 。しかしながら、長期化した難民キャンプでさえ、難民が教育を受けることができる機会は限られた状況にあります。

第28号 難民問題への対応と法や制度の客観性

 前回、EUの庇護政策のもと、ランペドゥーザ島で何が起きているかについてご紹介しました。ダブリンII規則(難民の取り扱いについて、EU域内で最初に入域した国が庇護審査を担当するという規則)への不満は、ご紹介したランペドゥーザ島を有するイタリア に限らず、ギリシャやスペインなど地中海に面する南欧諸国にも少なくないようです。

第27号 難民保護のしわ寄せ?

 残念ながら、嫌なことは他人におしつける、というのはどこの世界にもよくあることでしょう。昨年、社会現象と言えるほど話題になったテレビドラマ「半沢直樹」に、「部下の手柄は上司のもの、上司の失敗は部下の責任」というセリフがありました。思い当たるふ しがあったため、視聴者の共感を呼び話題になったのだと思います。

第26号 難民の出身国情報(COI)を調査報告するという社会貢献

 先日、2013年(平成25年)における難民認定者数等が法務省によって発表されました。この数字は毎年2月に発表されるのが慣例でしたが、近年は申請件数の増加に伴う法務省の業務過多からか、3月の発表となることが多いようです。申請件数は3,260件 (前年比28%増)、不認定処分に対する異議申立件数は2,408件(前年比39%増)と、いずれも大きな伸びを示しています。

第25号 「難民認定制度に関する専門部会」をご存知ですか ?(2)-日本と難民の関わりの見直しが始まっています-

 前回のコラム(「難民認定制度に関する専門部会」をご存知ですか?(1)、2014 年2月発行)において、難民行政を所管する法務大臣の私的懇談会「出入国管理政策懇談会」のなかに「難民認定制度に関する専門部会」を設置する形で、日本の難民行政の見直しが昨年 11 月に始まっていることをご紹介しました。

第24号 「難民認定制度に関する専門部会」をご存知ですか ?(1)-日本と難民の関わりの見直しが始まっています-

 みなさんは難民についてどのようなイメージをお持ちでしょうか。典型的には難民キャンプで急場を凌いでいる人々で、アジアやアフリカの比較的貧しい国々に存在している、という印象かもしれません。そのような印象は、あながち現実からかけ離れたものでもなく 、また差別的な先入観に支配された悪い印象だというほどでもないと言えるでしょう。

第23号 移動する人々と子どもの教育 Education for Migrant Children

 人の移動が容易になった現在、子どもは複雑な教育環境におかれています。
日本においても、親の都合で移動せざるを得なくなった子どもたちは、移動先での学校に適応することもあれば、適応できずに複雑な想いを抱えたまま成長することもあります。

第22号 条約は生きている?

 難民条約は、a living instrument、すなわち生きている文書である、とよく言われます。これはどういう意味でしょうか。
それは、難民条約の解釈は、社会の変化とともに発展していくものである、ということです。

第21号 人間の安全保障」と難民」 Human Security and Refugees

 今日の社会ではグローバル化が進むにしたがって、ヒト、モノ、サービスの国家間移動はますます盛んになり、政治・経済・文化・社会において国境の意味が相対的に低下しています。
なかでも人の移動については観光、出稼ぎ労働、移民、難民、国内避難民など、その形態によって様々な表現がされることがありますが、なかには難民であるか移民であるかを明確に区別することが難しい場合があります。

第20号 PNG ソリューションに揺れるオーストラリア:人間の安全保障のジレンマとパラドックス

 7月中旬、キャンベラに到着して間もなく、テレビ画面のラッド首相に目が留まった。
今後ボートによってオーストラリアに不法入国をしようとする庇護申請者はすべて、パプア・ニューギニア(以下、PNG と略称で表記する)のマナス島という小島に送還される、と高らかに宣言をしていた。

第19号 難民と気候変動

 この夏、日本列島は記録的な暑さや豪雨に見舞われました。日本の気候が熱帯化していくのを感じ、改めて地球温暖化を意識した方もいることでしょう。実は難民研究の分野においても、地球温暖化等の気候変動の影響が議論されています。

第18号 難民保護法

 先日 7 月 21 日に参議院選挙がありましたが、日本の国会が難民分野で国際的に高く評価されたことのひとつとして、2011 年 11月に採択された難民保護に関する決議を挙げることができます。

第17号 難民の数から考えること

 6 月 20 日は「世界難民の日」でしたが、この日に合わせて国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が 2012 年の統計を発表しました。それによると昨年(2012 年)1 年間で、新たに 110 万人が難民となりました。平均すると毎日約3千人の人々が難民となった計算になります。

第16号 「世界難民の日」とアフリカ

 6 月 20 日 は「 世 界 難 民 の 日 」(WorldRefugee Day)です。この日は世界中で、難民に関する多彩なイベントが行われます。
難民キャンプで、難民自身の手によるものから先進国で、難民について知ってもらい支援を募るためのものまで、開催地や主催者も様々です。

第15号 日本に暮らすミャンマー難民

 ミャンマーの民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんが本年 4 月に来日しました。
髪に花を挿したその姿をニュースでご覧になった方も多いでしょう。
1989年から3回、計 15 年 2 か月もの間、旧軍事政権により自宅軟禁されていた彼女が、いま海外で自由に会談や講演を行う姿をみると、隔世の感があります。

第14号 イタリアにおけるフィリピン移民:経済的な要因 Filipino Migrant Workers in Italy: Economic Factor

 イタリアは、フィリピン人の海外出稼ぎ労働者(Overseas Filipino Workers, OFWs)にとって、欧州の中で一番人気がある移住先です。
彼らの多くは、イタリア人家庭等でメイド、いわゆる家庭内労働者(DomesticWorkers)として働いています。

第13号 イタリアにおけるフィリピン移民:経済的な要因 Filipino Migrant Workers in Italy: Economic Factor

 人々は、「人間の安全保障」を守るための手段として「移動」という選択をとることがあります。
貧困から逃れて新しい機会を得るために、また生活を向上させるために、たいていの場合は貧しい地域から豊かな場所へ移動します。

第12号 難民キャンプでの人生 Life in Refugee Camp

 難民キャンプと聞くと、どのような場所を思い浮かべるでしょうか。
砂漠のような広い場所にたくさんのビニールのテントが並ぶようなイメージかも知れません。

第11号 難民の再定住プログラム:有識者会議 Resettlement Programme: Expert Group Meeting

 前回、前々回のコラムにて、タイの難民キャンプからミャンマー難民を受け入れるという日本の再定住プログラムについて、いくつかの課題点を見てきました。
このプログラムはまだ試験期間中ですが、政府のみで制度設計が行われ、また情報開示も十分になされていないという点が指摘されていることを紹介しました。

第10号 再定住難民:日本が不人気な理由 Resettled Refugees in Japan

 日本で試験的に再定住プログラムを開始してから、今年で 3 年目を迎えます。
当初は、パイロットプログラムの最終年ということで、これから本格的に事業を導入して再定住難民を受け入れるのか否かが決定される予定でした。

第9号 日本における第三国定住プログラム Third Country Resettlement Programme in Japan

 日本は難民を受け入れない国と国際社会で批判されますが、難民受け入れに際して新たな取り組みを始めています。
現在、タイ・ミャンマーのタイ側の国境には9つの難民キャンプがあり、約14万人が暮らしています。

第8号 難民の第三国定住 Third Country Resettlement of RefugeesStatus Determination

 本国にいることのできないやむを得ない事情、これが難民問題の根底にあります。
これに取り組まないことには問題解決などあり得ないのではないか、そう考えるのが自然でしょう。

第7号 難民認定に関する立証責任 Burden of Proof on Refugee Status Determination

 みなさんは、各種資格試験への対策の中で、裁判における立証責任についても詳しく勉強なさっていることと思います。
立証責任とは、ある主張に関する立証が成功しなかった場合において法的不利益(または利益の不発生)を被る者を選定する概念です。

第6号 難民認定における信憑性評価 Credibility Test for Refugee Status Determination

 紀元前 8 世紀、西周の幽王(ゆうおう)に褒姒(ほうじ)という后がいたそうです。絶世の美女であった褒姒は、しかし滅多に笑うことのない女性でした。
あるとき、過って王宮から狼煙(のろし)が上がるということがありました。これは緊急信号であったので、配下の諸侯は王宮に駆けつけました。

第5号 制度としての難民認定 Refugee Status Determination as a System

 唐突ですが、皆さんは「あなたが誰なのか、証明してみせよ」と言われたとして、一体どうなさいますか?
中世から封建社会にかけて、「やあやあ我こそは某(なにがし)」と名乗って敵に勝負を挑んだそうですが、それも戦争の合理化とともに廃れてゆき、果ては影武者を使って敵を攪乱し殺害を免れる、ということも行われるようになったと聞きます。

第4号 難民の収容 Detention of Refugees

 難民が収容されているという事実、今回はこのことについて、人間の安全保障もさることながら、人権を手がかりに考えてみたいと思います。
みなさんは憲法が保障する人権についてはかなり学習なさっていることだと思いますが、国際法もまた人権保障のための独自の制度を用意していることをご存知でしょうか。

第3号 「人間の安全保障」と人の移動 “Human Security” and Movement of PeopleSecurity”

 従来の方法では対応できない脅威に直面する時、社会は新たな方法によって安全を追求しようとします。
このような安全保障化(securitization)の流れの一端として「人間の安全保障」の提起がある、ということを前回書きました。

第2号 安全保障化と「人間の安全保障」Securitization and “Human Security”

 一般的に人は安全を求めるものと考えられています。
これが具体的な話になると、誰がどのようにどんな種類の安全を保障するのか、ということになります。

第1号 成功する社会は、開かれた社会である Successful society is, open society

 この短い言葉は、スティーブン・カースルズ教授のものです。
英国オックスフォード大学で、難民や移民など、人の移動に関する研究をなさっています。